きものを愉しむ

2023/10/04

京都の学生さんと見つめなおす”きものの愉しみ”
~箪笥に眠る物語(1)~

いつも弊社のブログ「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
京ごふくゑり善の亀井彬と申します。

ここ数日で急に朝晩の気温が下がり、いよいよ本格的な秋の訪れを感じるようになってまいりました。
季節の移ろいが美しいこの時期は、何かとお出掛けの多くなる季節。
是非とも素敵なお着物姿で過ごされてはいかがでしょうか。

さて、この度は、京都の学生さんたちと取り組んでいる「箪笥に眠る物語」プロジェクトのご紹介になります。

戦後多くのお方にとって身近な存在であったお着物も、
時代が経ち、洋装が中心の生活になる中で、
いつの間にか少しずつ縁遠いものになってきてしまっているようです。

お母様やおばあ様が想いを込めてご用意なさったお着物も、
その価値や当時の想いがうまく伝わらずに、もう着ないから…と
手放されたり、処分されてしまっている状況を耳にするたびにとても悲しい気持ちになっておりました。

また、核家族化が進み、家族や親族とのつながりが少しずつ希薄になる現代において、
ご両親やご先祖様、家族のルーツを知るきっかけがなくなっていることもとても残念なことだと感じております。

そんな中で、「箪笥に眠る着物」について、少し想いを馳せてみてはどうか。
との発想ではじまったのがこのプロジェクトになります。

SDGsという言葉や価値観を大切にしている”今を生きる”10代20代の学生の方々がこうしたプロジェクトを通して、
着物の本質的な価値をどのように感じられるのか。
また、ご家族のルーツを感じるきっかけとなり、その中で何を感じとるのか。

試験的な取り組みになりますが、
その経緯や学びをこの10月、弊社のブログ「きものを愉しむ」にてご紹介させていただきます。

学生さんたちが感じ取った”箪笥に眠る物語”に一度触れてみてくださいませ。

以下学生さんたちからのメッセージになります。
是非ともご覧になってくださいませ。

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はじめまして。

同志社大学社会学部1回生の松浦未空と申します。

私は、現在大学生協体験型講座「First Year Program in Kyoto」にて
京ごふく ゑり善様にご協力いただき「箪笥に眠る物語」というプロジェクトを進めさせていただいております。

まず、大学生協体験型講座「First Year Program in Kyoto」について簡単に説明させていただきます。
大学生協体験型講座「First Year Program in Kyoto」は、京都の大学に通う1回生が集い、
「TRY~視野を広げる~」&「LEARN~経験から学ぶ~」をコンセプトに
自己の成長を目指してチームで活動するプログラムです。

そして、私が今回ゑり善様にご協力いただき行っている「箪笥に眠る物語」は、
着物の伝承を盛んにし、着物に込められた、親から子や孫に受け継がれる思いを感じていただくことを目標としています。

そこで、私たちのチームは、自宅に保管されている着物や帯についてのエピソードや由来を家族にインタビューしてきました。
10月中ゑり善様のブログ「きものを愉しむ」にて、4回に分けてメンバーのインタビュー内容を掲載させていただく予定です。
拙文ではございますが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

まず、私たちのチームのメンバーの中原さんの家の物語を綴りたいと思います。

【水色のカトレア柄のお着物】
中原さんのひいおばあさまは、
お嬢様(中原さんからするとおばあさま)によく着物を仕立ててあげていましたが、
いつも赤やピンクといった色を勧めました。

なぜなら子供のころ、戦時中だったので赤やピンクといった派手な色を着ると非難されたからです。
ひいおばあさまは、赤やピンクといった色を自分が子供のころに着られなかった分、
子供にたくさん着てほしかったのです。

しかし、おばあさまは、赤やピンクばかりで飽きてしまいました。
そんな中、ひいおばあさまが赤やピンク以外で仕立ててくれた着物がありました。
水色のカトレア柄の着物です。当時はカトレアという花はとても珍しく、おばあさまはたいそう気に入りました。

おばあさまが20歳のころに仕立ててもらい、
使用していく中で膝が擦り切れてきたため、
30歳ごろに羽織へリメイクしてもらいました。
この先また擦り切れてきたら座布団へとリメイクするつもりです。

インタビューをされた中原さんの言葉です。

私は祖母が沢山着物を持っていることは知っていましたが、
どんな着物を持っているか全く知りませんでした。

しかし、色々な着物を見せてもらいながら、
その着物のエピソードを聞いていく中で、
着物に詰まっている思いというものを感じることができました。

そのため、曽祖母や祖母が大事にしてきた着物をこれからは私が守っていきたいと強く感じました。

と…

ひいおばあさま、そしておばあさまそれぞれの思いがつまった素敵な物語ですね。

擦り切れてしまっても、様々な形でリメイクできるのもまた、着物の魅力だと感じました。

リメイクして残していきたいと思うのは、
そこにひいおばあさまとおばあさまの思い出が詰まっているからなのでしょう。
着物を通して、曾孫である中原さんにまで思い出がリアルに伝わることに感動しました。

また、着物をリメイクして使い続けることは、地球環境の保全にとっても大切なことです。

昨今、大量生産・大量消費ではなく、循環型経済を推進すべきだといわれていますが、
着物はずっと昔からお直しをしたり、リメイクしたりして資源を大切に使ってきました。
着られなくなったら買い替えるのではなく、お直しをしたりリメイクしたりすることで、資源を大切に使っていきたいですね。

さらに、擦り切れてしまった着物は、
市場価値は低いかもしれませんが、中原さんのおばあさまにとっては思い出が詰まった大切な着物です。
ものの価値とは値段だけでは決まりません。

汚れたり擦り切れたりして、もう着られないから、もしくは買い取ってもらえないから価値がないと考えるのではなく、
着物に詰まった思い出に思いをはせて、自分にとってのその着物の価値を考えていきたいものです。

いかがでしたでしょうか。
ぜひご自宅のお着物に思いを巡らせていただけると幸いに思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また次回に続きます。

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。