きものを愉しむ

2023/12/23

着物を生み出す愉しみ①~”社員競作”という取り組みを続けている理由

いつもゑり善のブログ「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
ゑり善の亀井彬でございます。

今年も残すところわずかとなりました。
冬至を過ぎ京都の街も一気に気温が下がり、初雪も見かけるなど、冬本番となってまいりました。
絹のやわらかな温かさがとても心地よい季節です。

さて、この1年を振り返りますと、
改めて美しい着物を創り出すことの難しさを痛烈に感じることとなりました。

■お着物ができるまでには…

 お蚕さんを大切に育て、糸をいただくこと
 その美しい糸をつかって、きれいな生地を織りあげること
 お召しになる人を引き立てる構図を考えること
 美しい配色を生み出すために、糸のように細くでもしっかりと糊で防染をすること
 調和と主張の絶妙なバランスで色を刺すこと
 お客様の顔映りと帯合わせをイメージした地色に染めあげること
 繊細なぼかしにより、色の広がりと着物に奥行をもたせること
 蒸しと水洗いを通して絹に色を定着させ鮮やかな色合いに昇華させること。
 全体のバランスを損なわないように、箔や縫をあしらい華やかさや立体感を生み出すこと

数え上げればきりがない数多くの丁寧な仕事により、着物の世界のものづくりは支えられております。

さまざまな工程を拝見すればするほど、京都の高度な分業は、
その仕事に精通したプロの超越した技、
関わる工程においてお召しになる方の幸せを願って”もっと美しくしたい”というあくなき探求心、
自らの仕事を見せつけるような主張ではなく、全体の完成度を高めていくという奥ゆかしく品格を感じるお仕事
によって成り立っているように感じております。

一方で着物を作り上げる環境は、劇的な変化によって、悪化の一途を辿っております。

着物の原料である絹は、現在ほとんどを中国やブラジルに頼っておりますが、
世界的な需要増加にともない調達が困難になってきていると伺っております。
また、世界的な原油高は制作工程の様々なところに影響を与えております。
道具や材料の確保ができなくなり、今ある道具を使いながら…という工程もかなり多くなっております。
深刻な後継者不足、担い手不足はこの業界だけでなく様々なところで話題となりました。
長くこの世界でご活躍されてきたお方との悲しい別れもあり、貴重なお話を伺えなくなったことをとてもさみしく思っております。

このように、私たちが日々取り扱わせていただいているような美しい着物や帯を
お客様にご紹介できているということが、当たりまえのことではなく、本当に得難いことであることを感じる1年となりました。

■着物だからできること…
一方でこの着物のものづくりの仕事におけるとても興味深い特徴が、これから一つの鍵になるとも感じております。

長い歴史の中で培われたものづくりにおいて、未だに
“世界に1つだけのもの”をうみだすことができる生産の方法が維持されているという点です。

決して効率的ではないかもしれません。
ご覧いただくまでにお時間もかかりますし、
お客様にとっては想像する難しさもあるかもしれません。

ですが、お客様や誂え主さんからの様々なご要望に対応できるように…と
このような生産の在り方が今もなお存在しており、職人さんのご協力によって進めることができるということは
着物の世界の奥深い魅力であり、未来につながる希望であるようにも感じております。

■私たちゑり善が毎年続けてきた1つの取り組み
実は弊社にはこのような着物ならではの特徴に着目した面白い取り組みを続けてまいりました。
それが、「社員競作」という取り組みでございます。

お客様の担当をさせていただいている販売に関わる1人1人が、
1年間お客様と接する中で感じた「こんなのがあったらいいな」というちょっとした声
染屋さんや織屋さんとお話をする中で感じた「こんな技を活かしてみてはどうか」というちょっとしたアイデア
様々な世界を体験し、目にすることがきっかけになった「着物で表現してみたいもの」 など。

そんなちょっとした気づきや発想をもとに、1作品を作り上げる取り組みです。
弊社ではそうした作品を”競作”(きょうさく)と呼び、毎年1月に発表をしてまいりました。

とはいえ、わたしたちが下絵を描いたり、色を染めたりする事はもちろんできません。
職人さんの全面的なご協力をいただきながらちょっとしたアイデアを形にしていきながら、
世の中にない1つだけのものづくりをしております。

私自身もこれまで染帯や、雨コート、振袖や、初着などを競作として制作してまいりました。
 京都の香りのする帯を作りたい…
 軽やかなさらりとした生地で雨の日も楽しくなるようなコートは作れないか
 ハレの日を彩るこんな色の振袖があったらきれいだろうなぁ
 実はちょっとだけ干支が隠れているお祝い着を作りたい
など。

この取り組みを通して、私たちは「きものを創る愉しみ」と、そこの込められた「想いや工夫」を学びます。
 こんなことを考えて作ってくださっているのか…
 このような配色にするとこんな印象に変わるのか…
 このようなことは実はとても難しいのか…
なども取り組みを通して感じることができます。

こちらが1980年の記事で、当時の様子を伝えているもの。
そこからお客様にもご参加ただきながら毎年続けてまいりました。

■そんな競作にご参加されませんか

この社員競作の面白いところは、作品を作って発表して終わり…ということではなく、
その後、ご覧いただいたお客様に商品としてのご感想をいただき、ご投票いただくことです。

お客様や社員同士での投票結果も励みの一つです。

約20数点の商品が並ぶ中でお客様と楽しくお話を伺いながら、
ご意見をお聞かせいただくことがその1年の取り組みの振り返りとなりまた来年の競作へのアイデアとなります。
お客様の中にはかつてこの競作として発表したお着物や帯を締めてお越しくださるお方も…

どうか今回のご紹介を通して少しでもこの取り組みにご興味を持ってくださった方は
ご案内状がなくともお入り頂けますので、お気軽にご覧になってくださいませ。

皆様のお着物へのイメージや印象が少しでも広がるような時間となりましたら幸いでございます。

なお、2024年の社員競作のお披露目となる展示会は京都本店ならびに東京銀座店にてとりおこないます。
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【京都開催】初はるの会
 2024年1月12日(金)~14日(日) 京都本店にて

【東京開催】春裳展
 2024年1月18日(木)~20日(土) 東京銀座店にて
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【着物を生み出す愉しみ】を、
皆様とともに分かち合えますこと日を心待ちにいたしております。

次回のブログでは、競作への取り組みをより具体的にご紹介させていただきます。
こちらもぜひご一緒にご覧いただけましたら幸いです。

着物を生み出す愉しみ②~競作体験記~

ゑり善 亀井彬

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。