きものを愉しむ

2025/02/20

帯〆にせまる~内記組見学レポート~

内記組帯〆コーディネート

立春とは名ばかりでまだまだ寒さが続いておりますが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。

帯を結ぶ際に必須の小物でありながら、コーディネートの観点からみても重要なポイントとなる帯〆。
コーディネートのアクセントとしても重宝いたしますし、色味だけでなく組み方によっても雰囲気が変わります。
今回は数ある組み方のひとつ、「内記組」をご紹介いたします。

内記台

滋賀県大津市にて組紐作りをされている「藤三郎紐」さん。
以前内記組での帯〆づくりを拝見する機会があり、伝統工芸士の四代目 太田藤三郎氏にお話を伺いました。

 

~内記組とは~
「内記台」という木製の手組みの組台を使って製作していきます。
内記台は誕生経緯など詳しくわかっていないことも多いですが、からくり人形の細工を応用しており、台自体は100年以上前から存在するそうです。

内記台 耳

内記台 糸巻き

基本的な動作として、右横にあるレバーをひくと「耳」と呼ばれる台の上端にある部品が回転し、糸巻きにセットされた糸が絡まります。
上部にあがっている桶の一部のような円形の部分を下におろして糸を押さえながらレバーを引くと、糸は絡むことなく耳だけ回ります。
そうして糸同士を絡ませたり、空回りさせたりしながら模様を作っていきます。

 

~内記組の特徴~
〈特殊な形状〉
内記組帯〆 フォーマル
内記組一番の特徴は、袋状の組み方になることです。
仕上がりは袋状のものを平たくした形になりますが、多少なりとも空洞が残るため立体感のある柔らかな質感になります。
収縮の力があるので締めやすく、ほどけにくい帯〆が出来上がります。

内記組帯〆 しゃれ
おしゃれものには扇面型の房もございます。
藤三郎組は内記組のなかでも東組という組み方をされているそうですが、扇面型の房は東組でないとできないのだとか。
変わり房で先までのおしゃれを楽しめるのはカジュアルな装いならではです。

 

〈設計図のない組みあがり〉
内記台 数字

内記組の模様は糸の絡ませ具合だけでなく、耳の大きさと糸をセットする際の順番でも決まります。

耳の大きさによって糸を絡めた際の色のとび方が変わるため適切な大きさの耳を選び、台に書かれている数字を目安に複数の色の糸をセットし、円形の部品を上下させながら組んでいく。

設計図というものが存在しないため、驚くことに頭の中で組み方を考えながらこれらの作業を行うのだとか。
グラデーションの帯〆は色味が変わる長さを計算してから先に糸を染めるそうなので、糸を染める段階から完成形やそれに必要な工程を思い描いていることを考えると、職人さんの磨き抜かれた感性に脱帽します。

 

しかし残念ながらこの内記組も藤三郎紐さんでは台の老朽化により製造が難しくなってきているようです。
耳や糸まきなどの部品を作る職人さんがいないのも現状です。
内記組の現状について、太田氏はこう語ります。

これは文化がひとつなくなるということ。
職人も問屋も小売りも、そうなる前に早めに手を打っておけばよかった。
この先残るのは機械であり、手の組紐はなくなっていくのだろう

機械化が進むなかで、それでもここまで手作業が残ってきた理由を問います。
すると、味が大事だから残っていると仰っていました。
固すぎず、柔らかすぎない締めやすい帯〆は手組みだから実現することだと。

 

お着物が普段着でもあったりお嫁入りには一式用意したりしていた時代から考えると、お着物をお召しになる場面が少なくなっているのは事実です。

「古き良き」を大切にしたい。
後世に伝えたい。
そのためには、目まぐるしく変わりゆく日々の中でなにができるのか。

この業界に飛び込んだものとして今一度考えて行動していかなければならないと、お話を伺いはっとさせられる思いでした。

 

内記組帯〆

さて、帯〆・帯上については2月19日発売の『美しいキモノ』さんでも特集していただいております。
こちらでは色味やコーディネートを中心にご紹介させていただいておりますので、ぜひご一読くださいませ。

お着物もそうですが、小物も格を合わせていればどのようなものを選ぶかはお好み次第です。
小物を変えるだけでもお着物をお召しになったときの印象が大きく変わりますので、小物選びも楽しみながらコーディネートしていただけましたらと思います。

どんな色や雰囲気のものをあわせるのがよいか、悩まれたらどうぞお気軽にご相談くださいませ。

帯〆・帯上もフォーマルなものからカジュアルなものまで多数ご用意いたしております。
今回ご紹介させていただきました内記組の帯〆も執筆時時点でいくつか在庫ございますので、ぜひその目でお手にとって手組みの良さを実感していただけましたら幸いです。

 

【おまけコラム~帯〆の羽織紐加工~】
ご存じでしたか?実は帯〆から羽織紐を作ることができることを…

内記組羽織紐

写真は社長愛用の内記組の羽織紐。内記組の帯〆から加工したものです。
男性の羽織紐は房が上向きになりますので、ふわっとした切り房や撚り房を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、おしゃれ房はすっきりとしつつもその個性がひかりますね。

帯〆1本から2本の羽織紐を作ることができます。
1本は帯〆の房をそのまま使用し、もう1本は撚り房を取り付けることになります。
おしゃれ房でしたら房の違いを楽しめますし、撚り房の帯〆から作っても、もう1本は色違いの房にしてみるなど雰囲気を変えてお楽しみいただくことができます。

普段とは違うちょっとおしゃれな羽織紐が欲しいと思ったらぜひ帯〆ものぞいてみてくださいませ。

 

本店営業・久保田真帆

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。