八丈島に宿る力強い大地の色…山下芙美子さんの黄八丈
いつもブログをご覧いただきまして誠にありがとうございます。
ゑり善の亀井彬でございます。
寒さ厳しい中にも、春の足音が着実に聞こえてくるこの頃は、
温かな日差しを見つけては、ちょっとしたお出掛けがしたくなるような季節であるように感じます。
そうした2月に、弊社では毎年「糸くりの詩」と題して、全国各地の織物に特化した展示会を開催いたしております。
訪問着や付下などフォーマルなお着物に比べると、
特に何かの用事がなくとも、気軽に着て楽しめるいわゆる「紬」という織物のお着物。
ご普段から気軽に着物を楽しみたいというお方には、とっても重宝していただける存在です。
【八丈島の風土が生み出した美しい織物…黄八丈】
今回の企画では山下芙美子さんの「黄八丈」を特集いたしております。
東京から飛行機でわずか1時間ほどの島には、京都では見ることのない大地の色がありました。
火山活動により生み出された黒が足元に広がります。
ぱっと思い浮かべるあの「力強い黄色」は京都の景色からはうまれません。
藍や紅花のない土地だからこそ生まれる独特の色の数々とその組み合わせに目を奪われます。
驚くべきことは、山下芙美子さんの工房で生まれるこの力強い色は、
すべて草木染によるものであるということ。
古代中国では皇帝の色とされた黄色
樹齢50年以上の木の皮から染められる樺色
優しくも力強いつやのある泥染による黒
八丈島に宿る力強い大地の色は山下家によって絹に染められ、美しい布へと形を変えます
今もなお続く、黄八丈の昔ながらの特色を是非手に取ってご覧になってくださいませ。
【全国各地に存在した特徴のある織物は今…】
さて、弊社の書庫におかれている「日本傳統織物集成」という裂地集。
48年前昭和50年1月7日に発行されたものでございます。
それほど古くはないのですが、当時の各産地の裂地が美しくまとめられた貴重な資料となっております。
特に、興味深かったのが、各産地の織物の種類の多さです。
薩摩、肥後、筑後、伊予、土佐、阿波、讃岐、丹羽、大和、近江、加賀、能登、越中、美濃、信濃、越後、伊豆、上野、岩代、羽前、陸奥
これでも一部ですが、当時は本当に全国に特徴のある織物があったことがよくわかります。
裂地は全部で「150種類」に上ります。
素材に関しては、絹よりも「木綿」が多いことが分かります。
いかに、各地の織物が人々の生活と密接にかかわっていたかを読み取ることができます。
一方で、今も存在している産地はどれだけあるのか。ということが頭によぎります。
少なくとも一般的な流通のルートで私達が見かけることがあるお着物は全体の「3割ほど」
協会や組合が残っている産地でも、なさっておられる工房が1軒のみ、というところもございます。
また、長く続く新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、ものづくりがストップし、廃業なさったお店があることも事実であり、
この50年で急速に全国の染織文化が衰退し、昔ながらの特色が失われていることを痛感いたします。
技術革新による機械化と大量生産が可能になったうえに、
交通や情報の行き来が盛んになることで、
各地の風土になじんだ染織品は、地域的な結びつきから切り離されてゆきました。
昔ながらの特色を失っていかざるを得ない状況にある
日本が大切にしてきた全国各地の織物の魅力。
まずは何よりも、少しでも多くの方に、その美しさと特色を知っていただけましたら幸いでございます。
どうかお気軽にご覧になってくださいませ。
京ごふくゑり善 亀井彬