きものを愉しむ

2023/12/29

着物を生み出す愉しみ②~競作体験記~

冷たい風に身も凍える思いですが、澄んだ空気に星が綺麗に見える季節でございます。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。

新年を彩るゑり善の展示会、京都本店の「初はるの会」と銀座店の「春裳展」。
合わせて開催される社員競作の会。
前回のブログではこちらの競作(きょうさく)の取り組みについてご紹介させていただきました。

例えば特定のお柄の、特定のお色のお着物や帯がほしいと思ったとき。
イメージと同じものがなかなか見つからない…
似たようなものは見つけたけれどそれで妥協したくない…
そんな経験はございませんか?

そのようなときは「いちから作る」ということも視野に入れてみてはいかがでしょうか。
1点ずつ作ることができるというお着物の特徴を活かして、お好みの一枚をお作りする。
そのような「別誂え」もゑり善ではご提案させていただいております。

競作はお客様からお探し物のご相談を受けた際に作るという選択肢を、別誂えのご提案をいつでもできるようにという目的で、社員の勉強のために行われています。

そうはいっても特に別誂えが初めての場合、実際どのような流れで作るのか、本当に思い通りのものができるのかといった不安もあるかと存じます。
そこでこの後は、競作の流れのご紹介とともに、今年初めて競作で染帯を作った私の体験談をお話しさせていただこうと思います。

ゑり善では、1年を通してお着物の基礎の基礎を学んだ入社2年目から制作を行います。
初の競作に実際何を教わり、何を得たのか、どのような思いをもって作ることができたのか。
私の話で誠に恐縮ですが、少しでも皆様の疑問や不安解消の手助けになりましたら幸いです。

 

〈アイデア探し〉

競作は毎年夏ごろから始まります。

何を、どのような地色で、どのような柄で、どの年代層をイメージして作るのか。
古典的なものを作る人もいればあえて着物には珍しい柄で個性を出す人も。

経験を積み重ねると、着物に合う柄ゆきなども分かったうえで自分なりの工夫をできるようになりますが、2年目の私にはまだ難しかったので、作るものに込めたい思いを大切にして作ることにしました。

お気に入りのものや好きな色を身に纏うとき、それだけで少し気持ちが高まりませんか。
私にとって「身に着ける」ことはそのような意味を持つこともあるので、私の作った染帯をお求めいただいた方にとっても、何かしら力になる染帯になればいいなと思い、アイデアを練りました。

 

〈資料集めと相談〉
競作資料

具体的にどのような染帯になったのかは初はるの会まで秘密にさせていただきますが、自分の込めたい思いは花言葉に託すことに決めました。

そのお花の写真を様々見比べながら、全体の雰囲気はこの写真で、色味のイメージは別の写真で…といったように資料をいくつか集めて、職人さんや、職人さんとの仲介をしてくださる問屋さんと相談をします。
そうして柄ゆきの軸となるいわゆる下書き、下絵に取りかかっていただきます。

 

〈下絵の完成〉
下絵

下絵は必ずしも一回のやり取りで完成するものではありません。
私の場合ここで第一のハプニングが発生します。

帯のお花は12月から6月まで咲く洋花ですが、まとまりのある咲き方をするため、アジサイに見えてしまうという事態に…そこで問屋さんからのご提案がありました。

花弁の特徴的な色づき方を活かし、また、つぼみを少し増やしてアジサイとの差別化をはかりましょう、と。

自分ではお花の種類と、なんとなくの雰囲気で柄の様子を伝えることしかできませんでしたが、そのお花のどの特徴を柄に落とし込んだらおもしろいか、道も示していただきました。
「お着物の柄としての視点」も大切だと気付いたとともに、その視点は経験を積んで得られるものなのだろうと思いました。

染帯の場合は、柄はお太鼓と前の2か所になりますが、付下げなどお着物の場合はメインの柄の位置が決まっており、そこにどのような柄を持ってくるか、他の柄はどのようなバランスにするかなど、注意する箇所が多々あります。

 

〈色決めと染色〉
色見本

続いては色味探しです。

私の場合基本となるのは地色、花弁の色、葉の色の3種類。
帯の柄に、曇り空の中でも懸命に咲く花、希望のような意味を持たせたかったので、地色はグレー地にしたいというこだわりがありました。
花弁はピンクの花の花言葉を用いていたのでピンク、葉は緑、と大まかな部分は決まっておりました。
それでもなかなか色味探しは難しさを感じました。

色見本の中から、他の色との雰囲気やバランスが合うかもと思った色を探してみても、先輩や問屋さんに相談すると微妙に毛色が違うと教わることもあり…
色を探すときに一種の基準となるのは「何色寄りの色か」ということでした。
赤みなのか青みなのか黄みなのか…それを合わせるとまとまりのある色合いになるということを学びました。

 

〈箔や縫いの加工〉
刺繍糸
金括り・刺繍

染めが完成したら箔や縫いなどの加工を行います。

この加工をすることで柄にメリハリがつき、引き締まった印象になります。
しかし入れすぎると主張が激しくなってしまうのでバランスが重要な工程です。
その感覚も経験を積み重ねることで分かっていくものなのだと思います。

私も問屋さん指南のもと加工を施しましたが、染めだけでは優しくも何となくぼんやりとしていた柄が、縁を金で括ったり花弁に刺繍を施してグラデーションのように表現したりすることで、より表情豊かな染帯に仕上がりました。

以上が競作制作の流れでございます。

 

お誂えも同じような流れですすんでいきますが、必ずお伝えさせていただかなければならないのは、【必ずしもイメージ通りに完成するとは限らないということ】です。

お着物は複数の人の手を通って作られてゆきますので、良くも悪くも化学反応はおこります。
微々たる色の差で印象が変わってしまうなどということもございます。
それでも忘れないでいただきたいのは、そのお着物づくりに携わる誰もがよいものを作ろうと思っているということです。

作りたい人のイメージに、お着物の、ものづくりのプロとしての知識を付け加え、こうしたほうがいいのではないかと提案をしているのです。
お誂えの際も基本的に下絵、色の確認、染め…と一工程一工程確認していただきながらお作りさせていただきますので、少しでも気になることがあればお伝えいただけましたらと思います。

作りたいイメージはあるけれどうまく言葉にできない…といった場合でも大丈夫です。
じっくりとお話を聞きながら、話し合いを積み重ねながら、可能な限りイメージ通りに仕上がるように、一緒にお作りさせていただきたく存じます。
私のように経験の浅い者でも、経験を積み重ねた頼もしい先輩方が周りにおりますので、力を借りながら誠心誠意努めます。

まずはぜひ一度、初はるの会にて社員が一から作った作品をご覧くださいませ。

良いと思った作品に投票していただけるちょっとしたお楽しみもございます。
投票や競作についてはinstagramでも写真とともにご紹介しておりますので、そちらもご参照くださいませ。

年末のご多用の中最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

一年が経つのもあっという間ですね。
それでは皆様良いお年をお迎えくださいませ。

本店営業・久保田真帆

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。