きものを愉しむ

2024/08/30

ゑり善440年の歩み~京都本店・銀座店・名古屋店のご紹介~

いつも私たちのブログ「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
ゑり善の亀井彬でございます。

暑かった8月もあっという間に過ぎ、朝夕の涼しい風に秋の訪れを感じる日々となってまいりました。明日からはいよいよ9月。台風など雨が少し心配なこの時期は、水にも強い麻の着物に袖を通しながらも、そろそろ単衣の着物へ…という気持ちになります。

さて今回のブログでは、お客様とのご縁が生まれる大切な場所、私たちにとっても大切な職場であるゑり善の”店舗”をご紹介いたします。
これまでの歴史も含めてご紹介いたしますので、普段からよくお越しになっていただく方には、”より深く”、まだ訪れたことがないというお方には、”より身近に”感じていただけましたら幸いです。

京都本店
私たちゑり善の歴史は京都、裏寺町蛸薬師で創業者である山崎善助(やまざきぜんすけ)が開業したところから始まります。天正12年、本能寺の変の2年後。1584年に産声を上げました。今からちょうど440年前のこととなります。その後時代は流れ、明治元年1865年に現在の四条河原町に進出をいたしました。

当時は座売りと呼ばれる畳に座り、腰を掛けた形でのお商売のスタイルが一般的でしたが、大正14年には、お客様も私たちも立ちながらお買い物ができるようにと、店の半分を改造しております。
また、昭和3年には河原町通の拡張に合わせて改築を行うなど、よりお客様とお話が弾むように度々店を改築していたようです。

しかし、昭和18年からは戦争の激しさが増し、物資不足にもなるなかで、営業ができない時期を迎えます。この間は中京衣料配給所に指定をされたと記録が残っております。
今でも昭和17年に商工省が発表した衣料品の点数表を資料として見ることできますが、15項目ある和服類は、洋服よりも先に書かれております。また男性のトンビコートと、背広が同じ50点と高いことから、この当時の着物という存在の大きさを知ることができます。

戦後は、絹の統制が外されるまでには時間がかかり、縁のあった6名で雑品などを扱いながら商いを再出発させました。

長いお付き合いのあるお客様などからはいまだにお話しを伺う事もあるのですが、昭和27年には京都駅の観光デパートが完成し、弊社も出店。京都駅前地下のポルタにも出店をしていた時期もございます。
両店ともに今では退店をいたしておりますが、その当時は、京都の街に働きにこられていた多くの方が、お盆やお正月にご実家に帰るときに、ご両親やお世話になっていた方のために、たくさんの反物や帯〆をお買い上げになったといいます。着物というものがお土産品であった時代を考えると、着物がより身近な存在であったのだと、非常に感慨深い想いがいたします。

現在の店舗になりましたのは、平成20年、2008年の9月。老朽化していた建物を建て替えリニューアル致しました。それ以来沢山のお客様やお取引先様、学生の皆様などが集まる場所として今に至ります。

5階建ての建物を南側から見ていただきますと、目に留まるのが、グレーの壁面。当時珍しかったアルキャストという鋳物を使っております。柄は見る人によって、受け取り方が変わります。鴨川の流れや光の差し込む様子などなど。夜、四条通をお通りの際には少し目線を上げて、ご覧になってくださいませ。

[ゑり善四条本店を南から見上げる]

四条通のウィンドウは街ゆく方にふと足を止めていただけるようにと大きなものにいたしました。東側、西側、そして裏寺通り。3つの異なるディスプレイにはその季節ならではのものが陳列されます。道行くお方の中で、お一人でも多くの方が、「やっぱりお着物はええなぁ」、「そろそろあの着物着てみようかなぁ」などと、着物を身近に感じて頂ければと願っております。

なお、本店のinstagramのアカウントでは、その時のウィンドウの様子をストーリーにて随時公開しておりますので、こちらもぜひお楽しみくださいませ。

[四条通沿い、店舗正面のウィンドウ] [裏寺通り沿いのウィンドウ]

店内は1階と2階が売り場となっております。
1階は帯〆や帯上などの和装小物から風呂敷やハンカチなどのちょっとしたお土産に向くお品物。
その奥には季節の着物や帯が並びます。

[四条本店の1階の様子]

2階には振袖や訪問着といった礼装のお着物をご用意。
時間を忘れてゆっくりとご覧いただけるよう、日本家屋の一部を移築したしつらえとなっております。

[2階の様子:お振袖や訪問着など礼装のお着物が並びます]

 なお、ゑり善のウィンドウでは、仕立代や裏地など等を除いた着物や帯、そのものの値段を必ず表示しております。

京都は、着物で言えば、日本一の生産地であり、日本一の集積地であり、また日本一の消費地でもございます。ウィンドウの前を通られる方の中には、毎日お着物をお召しになる方もおられれば、自分がこの着物を作った、というお方もお通りになられます。着物に関わる多くのプロの方の厳しい目で、常にゑり善の品揃えと価格をチェックしていただいている。という考え方は京都で商いを続けているうえでは忘れてはならない大切なものだと思っております。

銀座店
私たちが東京に店舗を出店をさせていただきましたのは、昭和32年になります。それまでは、東京出張所を本郷に構えておりましたが、お客様からのご紹介で銀座のすずらん通りに出店をいたしました。銀座店の出店のおかげで、東京はもちろんのこと、関東近郊をはじめ、仙台、盛岡など東北のお客様とのご縁にも恵まれました。今なお、たくさんのお客様との大切なつながりを深める場所となっております。

出店をした「すずらん通り」は呉服店も立ち並ぶ通りだったと伺っております。商店街の皆様とのつながりも深く、すずらん通りのお祭りなど地域に根差した呉服店として親しまれてまいりました。東日本大震災などの苦労も乗り越え65年ご愛顧していただいた店舗も、老朽化が原因となり閉店を迎えます。

変わって、令和4年1月からは同じ銀座、外堀通りに面した店舗へ移転をいたしました。

[令和4年にリニューアルした銀座店]

通りに面した広いウィンドウで、京都の香りのするほんまもんのお着物を多くの方にご覧いただくこと。
店内のこだわりは古木を中心に居心地のよい空間づくりを目指しております。

[木の温もりと明るい光が特徴の店内]

お隣には京都の名店でおられる松栄堂さんが、また喫茶店のウエストさんもお近くにございます。地下には駐車場もあり車でのアクセスがしていただきやすい場所となりました。

常に流行の中心である東京の街で、ファッションとしての着物を提案する場。京友禅、西陣織を中心とした京のほんまもんをご覧いただける店舗を目指しております。是非銀ブラの途中お気軽にお立ち寄りくださいませ。

[味わいのある古木を使った店内]

名古屋店

昭和46年に開店した名古屋店は2021年に出展50周年を迎えました。
店を構えるのは名古屋市天白区に位置する八事。尾張徳川家の祈願所として、長く信仰されてきた興正寺がこの地に立てられたのも、穏やかな起伏に松が茂り、豊かな水があったからではないかといわれております。今では多くの大学のキャンパスが広がり、愛知県有数の文教エリアになっております。歴史や自然を感じることができるこの地で、一歩ずつ歩みを積み重ねてまいりました。

茶道やお琴など芸事が盛んな地域。家族とのつながりを大切にされ、お着物のご着用もとても大切にされておられます。晴れ着はもちろんのこと、お稽古着や普段のお着物、進物のお品物など、住宅街の中にある店舗の特徴を活かして、何かある時にはご相談いただけるようなお店を目指しております。

なめらかなカーブの坂道に位置する店舗のウィンドウには季節を感じるお品物や陳列が…
ふんわりとあたたかな空間は私のお気に入りの場所の一つです。

[名古屋店の通り沿いのウィンドウ]

礼装のお着物からおしゃれのお着物まで。帯〆や帯上などのコーディネートも大切にしながらゆっくりとお品物をご覧いただけます。お手入れやお直しに対するご相談事も非常に多く、ちょっとしたお困りごとを相談しにというお使い方をしてくださっているお方もたくさんおられます。

[名古屋店の店内の様子]

名古屋という土地柄もあり3店舗で唯一店舗近くに、お客様専用の駐車場もご用意しておりますので、お車でご来店をご希望の方はご相談くださいませ。

以上、今回はゑり善の3店舗の歩みをご紹介いたしました。

私は入社時に東京の銀座店で1年3カ月、その後京都で10年ほどの勤務となりました。展示会などで東京や名古屋の店舗や会場に伺う度に、それぞれの地域のお客様の趣向やお好みを感じるひと時を愉しんでおります。

異なる部分もございますが、いずれの店舗にも共通して言えることは、控えめでありながらもさりげなく品格を感じる品揃えを大切にしていることです。華美にならず、さりげなく技が光る、長く見ていても飽きのこないお品物は、きっと時代に左右されることなくお客様にご愛用いただけるのだと思います。

そしてその着物や帯の良さを引き立てる組み合わせや、季節感を取り入れた帯〆や帯上などの和装小物のコーディネートにもこだわること。

「あの着物にはこんな帯を…」
「次の集まりにはこちらの帯〆で季節感を出して…」
「お母様から譲り受けられたお着物を活かすには…」

そんな、私たちからのご提案を通して、お客様が少しでもお着物を愉しむ場所になっていれば何より嬉しく存じます。

「呉服店は少し入りにくい」
「見るだけでもよいのだろうか…」

こうしたご不安もあるかもしれませんが、どうかお気軽に店舗に足を運んでいただき、ゆっくりと着物に向き合う時間をお過ごしいただけましたら幸いです。

【ゑり善で待ち合わせ】
そんな風にお店に多くの方が集まっていただけますよう、これからも精進してまいります。

9月には「染帯のすすめ」と題した展示も行う予定でございます。
少し暑さもおさまってくるこの季節、お出かけのついでに、是非店舗へもお立ち寄りくださいませ。

皆様のご来店を心からお待ちいたしております。

ゑり善 亀井彬

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。