きものを愉しむ

2024/11/30

師走の京都の風物詩~吉例顔見世興行とは~

いつもゑり善のブログ「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
ゑり善主人の亀井彬でございます。

今年は特に暑さが残る秋となっておりましたが、11月に入りようやく過ごしやすい気候となり、今京都は絶好の紅葉シーズンを迎えております。お着物姿のお客様も数多くお見かけするようになり、日本の秋、京都の秋にはやはりお着物姿が欠かせないことを改めて実感している日々でございます。

さて、そんな秋から冬に季節がぐっと変わっていくことを知らせる京都の師走の風物詩がございます。それが「吉例顔見世興行」です。
南座

弊社のブログ「きもの愉しむ」は、着る場所がなかなか見当たらなくて…どんな風に着物のある生活を楽しむことができるのだろう…というお方に向けて、きものを愉しむための情報をお伝えしたいと思い始めました。

今回はまさにそんなテーマにぴったりの年末の京都での歌舞伎興行、顔見世についてお伝えしてまいります。

◆歌舞伎発祥の地に立つ日本最古の劇場…南座

出雲阿国が京都の街で歌舞伎踊りを演じたと記録が残っているのは1603年(慶長8年)のこと。1608年、当時のことを記した記録では、四條河原において女歌舞伎の興行が行われ、評判になったと記されているようです。

そのころから櫓(やぐら)を構えた芝居小屋が並び始め、歌舞伎だけでなく人形遣いの興行が人気を博していき、1620年には京都所司代によって7つの櫓が官許されたとされています。これが今の南座の起源とされており、400年を越える歴史が残されております。

私たちゑり善の創業についても、天正12年、440年とされておりますので、当時のお客様もこうした興行を愉しんでおられたのかもしれない…と想像をするとわくわくしますし、その光景はどのようなものであったのか本当に興味深いものがございます。

そこから歴史は下り、1906年(明治39年)には、すでに演劇の制作と興行をスタートさせていた白井松次郎氏と大谷竹次郎氏の兄弟で立ち上げた松竹合同会社が南座の経営に携わるようになります。

1929年(昭和4年)には、現在の南座が竣工し、地上3階、地下1階の今の形になりました。現在では国の登録有形文化財にも登録され、100年近く四条の、京都のシンボルとして長く愛されています。

「日本文化の伝統を継承、発展させ世界文化に貢献する」という白井松次郎氏、大谷竹次郎氏、お二人の理念は今も着実に伝えられ、私たちの生活を豊かにする機会を与え続けてくださっております。

◆吉例顔見世興行 とは

そんな歴史ある南座で毎年12月に行われるのが顔見世興行です。

江戸時代、劇場と俳優さんは専属の契約をされており、その契約期間が11月から翌年の10月までの1年間であったため、京都では12月に新しい顔ぶれをお披露目する場として開場されていたようです。「顔見世」という言葉の意味としても、「これから1年こちらの俳優さんでまいります」という大切な意味があり、1年のうちでもっとも重大な興行とされていました。

江戸時代の京都の様子を残した貴重な資料とされている本居宣長が記した「在京日記」にも、顔見世興行についての記録があります。ちなみに、本居宣長は芝居に大きな関心があったようで、興行中の芝居について、主要な出演役者や劇の評判についてこまめに記していたようです。

1756年の日記の中には、顔見世興行の初日の風景が記されております。
「とても早くからいくようだ。若い娘などは夜も寝ずに身支度をして、夜のうちから出かけるようだ。」
「すべてのこの顔見世というものは、長い冬が終わって春がやってきたような心地がして、観に行かなくても、なんともうきうきして良いものだ。」

今の時代にこの言葉にふれると、その当時のなんとも楽しげな雰囲気が伝わってまいります。大好きな俳優さんに会える喜び、着る物にもこだわって、という様子がありありと感じられますね。

また行かなくてもうきうきするという気持ちもとても共感できます。
その理由の一つが、京都の顔見世興行において欠かせない「まねき看板」。
江戸時代に登場した広告手段の一つで、勘亭流(かんていりゅう)という独特の太い字で俳優さんの名前を記し、上部に紋を飾ります。庵型(いおりがた)と呼ばれる家の屋根をかたどった形もとてもユニークです。

まねき

102年ある「まねき書き」の歴史において、昨年2023年からは川端清波さんというお方が5代目としてご担当をされております。私は今年37歳ですが、川端さんは39歳。勝手ながら同じ世代の方がこのような責任あるお仕事をおつとめされているお姿に、強く感銘を受けております。今年は総数59枚のまねきがあがっております。その力強くも温かみのあるまねきをみると、心がとてもほっこりします。

まねきの上がった南座の景色は本当に美しいものです。きゅっと冷たい朝でも、にぎやかな昼でも、日の沈んだ後のライトで浮かび上がるような景色も。重厚感のある南座の華やかな景色は私の大好きな京都の景色の一つでもございます。

南座外観

どうか是非皆さんもお近くをお通りの際には、この素晴らしい景色を一度ご覧になってくださいね。

感謝の気持ちを込めたお着物姿で…

さて、こうして調べてまいりますと、この「顔見世興行というものがいかに特別なものであるか」ということを改めて実感することができました。

顔見世にご出演される大切な俳優さんのますますのご活躍を祈る気持ち。
一年の締めくくりとなる季節に、また元気に顔見世興行がみれるという幸せ。

そんな思いが、本居宣長の在京日記にあった「夜も寝ずにこしらへて」という言葉を生んでいたのだと感じます。

ゑり善でも顔見世に関わるそうした光景が、昔からあったと諸先輩方から伺ってまいりました。

年末の顔見世には新調した大切な着物で観に行きたい。
幼い頃におばあちゃんに手をひかれて南座に着物姿で遊びに行った。
たくさんは着れないからこそ、思い出のある顔見世では母から譲り受けた大切な1枚に袖を通したい。

これからもそんな想い出に残るような顔見世でのひと時に、お着物が寄り添ってくれていたら、呉服に関わるものとして何より嬉しく思います。

今年も劇場装飾がなされた南座の前には「乍憚口上」(はばかりながらこうじょう)として、看板がおかれてあります。
毎年、その公演に応じたご挨拶がかかれているのですが、今年の文末だけ書かせていただきます。


松と竹とが序(はじ)まりの 都に歩んで百世年(ももみそとし)

 未来永劫続かんと 吉例(きちれい)重ねた幾星霜(いくせいそう)

心に刻むはご贔屓(ひいき)の 変わらぬ拍手、ご声援

 祈る期待の顔見世興行(めいぶたい)

何卒賑々(にぎにぎ)しくご光来のほど 偏(ひとえ)にお願い申し上げまする


この美しい日本の言葉に触れると、この街の賑わいを生み、お客様に大切にされるご姿勢に、ありがたい気持ちが深まります。
今年も開催していただき、ありがとうございます。そうした感謝の気持ちが湧いてくるものです。そしてその想いを表現するような着物を着て、私も観に行ってまいります。

是非、今年も12/1(日)から南座さんで行われます
【松竹創業百三十周年 京の年中行事 當る巳歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎】にもご注目くださいませ。

何かとせわしない年末を迎えましたが、どうか皆様にとっても素晴らしい1年のしめくくりになりますように。
今回も最後までご拝読くださり誠にありがとうございます。

ゑり善 亀井彬

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。