きものを愉しむ

2022/08/17

自宅でできる 浴衣のお洗濯 その1

全国的に厳しい暑さが続いておりますが、少しずつ秋の気配も感じられるようになってまいりました。
皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

京都本店 店頭の廣政と申します。
今回は「自宅でできる 浴衣のお洗濯」と題しまして、ブログを書く機会をいただきました。
つたない文章ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。

今年は祇園祭 山鉾巡行と五山送り火の全面点火が3年ぶりに開催され、
京都の街には浴衣をお召しになった方たちが本当にたくさんいらっしゃいました。
他の地域でもひさしぶりにお祭りや夏の行事などで
浴衣をお召しになる機会が多かったのではないかと思います。
7月8月と浴衣をお召しになり、さてそろそろクリーニングに出そうと思っておられる方へ
「実は浴衣はご自宅でお洗濯ができます!」ということをお伝えしたく、このブログを書いている次第でございます。

とはいえ、私は洗濯に関しては完全な素人。
そこでゑり善でもお世話になっている悉皆屋さんに、プロの視点での浴衣のお洗濯についていろいろとお伺いしました。


「自宅でできる 浴衣のお洗濯 その1」でお伝えいたしますのは
いわばご自身で浴衣のお洗濯をなさる前の導入編です。
浴衣の洗い方については次回「自宅でできる 浴衣のお洗濯 その2」でお伝えしてまいります。

 

1.汚れ

(1) 汚れのタイプ

まず汚れのタイプは大きく分けて油溶性・水溶性・不溶性の3種類があります。

油溶性とはアブラの汚れ。
食べ物の油だけでなく、人間の体から出る皮脂もこの汚れにあたります。
そしてファンデーションも油溶性。
着物をお召しになるときに半衿にファンデーションが付いてしまうとお悩みの方も多いかと思います。
浴衣は半衿なしで着用することが多いため、衿元のファンデーション汚れも気になるところです。
この油溶性の汚れはベンジンやアルカリ電解水を使えばご自宅でも落とすことができます。
(ベンジンは薬局で販売されていますが、揮発性の高いものです。取り扱いには十分ご注意ください)

次は水溶性の汚れ。
こちらは汗やお茶、お酒、血液など水によく溶ける汚れのことです。
油溶性の汚れは油で落とす、水溶性の汚れは水で落とす。
油溶性の汚れは水では落とせませんし、その逆もまた然りです。
汚れに対して適切な処置をしなければ、落とすことができないのですね。
水溶性の汚れでも赤ワインや血液などは色素成分が多く、水洗いをしても落ちにくいものもあります。
特殊なシミは専門店に出しましょう。

最後に不溶性の汚れ。
こちらは墨汁やガム、接着剤(ジェルネイルのグルーも)などの樹脂系の汚れです。
とてもやっかいな汚れなので、自分で処置をせずにすぐに専門店へ出してください。

3種類の汚れのタイプについてご説明してまいりましたが、混合タイプの場合もあります。
ソースやドレッシングなどは油溶性と水溶性の混合タイプで、
処置の方法を間違うと汚れがなかなか取れにくくなったりするそうです。
そういった汚れの場合も専門店へ相談しましょう。

ポイント:汚れのタイプは油溶性・水溶性・不溶性の3種類
それぞれの汚れにあった対処法が必要!

 

(2) 汗について

汗は水溶性の汚れですが、浴衣にはどういった影響を及ぼすのでしょうか。
もうすこし詳しく見ていきましょう。

まずは室内にいるときにかいた汗。
弱酸性で舐めるとしょっぱい汗です。
これには人間の肌の潤いを保つためにいろいろな成分が含まれています。
ですので、この汗が付いたきものを放置しておくとその成分がやがては黄色いシミになります。
シャツなどの衿や脇、袖口のところが黄ばんだり黒ずんだりするのは、この弱酸性の汗が酸化するためです。
首回りなど黄ばみがおこりやすいところは、そこだけポイント洗いをすることが大切です。
(くわしいお洗濯方法は次回ご説明いたします)

もうひとつは大量にかいた汗。
極度に緊張したときや、とても暑いときにどっと汗をかいたという経験がおありかと思います。
これは体が異常を察知して出すもので、アルカリ性のしょっぱくない汗です。
浴衣は暑い日の屋外で着ることが多いため、一度にたくさん汗をかきます。
浴衣を着たときの汗はアルカリ性であることが多いようです。
このアルカリ性の汗には細菌が好む栄養成分も多いので、早く水洗いをして菌の繁殖を防ぐ必要があります。
すぐに洗うことでほとんどの成分は落とすことができます。

ポイント:汗には弱酸性とアルカリ性の2種類がある
黄ばみ対策としてポイント洗いをしたあと、洗濯用中性洗剤で全体を洗う!

 

2.洗濯する前に

さて、いろいろな汚れについて触れてまいりましたが、何となくお分かりいただけましたでしょうか。
次はご自身でお洗濯なさる前に、浴衣について知っておいていただきたい大切なことです。

 

(1) 自宅で洗える浴衣の種類

洋服は洗濯表示がタグに記載されていますが、
きものや浴衣にはほとんど洗濯表示がついておりません。
ですので、どうやって洗濯したらいいのか、そもそもご自分でお洗濯できるのかどうかが分からずに
クリーニング店に出される方が多いのだそうです。
しかし悉皆のプロ曰く、「基本的に浴衣は自分で洗えます」

そもそも浴衣とは今で言うパジャマ・寝巻のようなものです。
昔は浴衣を自分で着て、自分で洗うのが当たり前でした。
しかし現代では特別なときに着る、ある意味よそゆきのものとして認識されるようになっています。
ご着用のシーンは時代によって変化してきましたが、
気軽に着られる浴衣は確かに自分で洗えるはず…と目から鱗が落ちた瞬間でございました。

さて前置きが長くなりましたが、本題に参りましょう。

綿・麻・化繊のものは基本的にご自宅でお洗濯ができます。
逆にお洗濯ができないものは絹。
素材に絹が入っている場合は水で洗うと生地が縮んでしまうため、専門店に出しましょう。
綿と絹を使っている「絹紅梅」はお洗濯できません。
似た雰囲気の「綿紅梅」は綿のみを使っているので、こちらはお洗濯可能です。
また、「奥州小紋」や「絞り」の浴衣もお洗濯できます。

ポイント:綿・麻・化繊・絞りの浴衣は洗濯OK!
絹が入っている場合はNG!

 

(2) 洗濯前の色落ちチェック

大切な浴衣が「ものすごく色落ちしてしまった!」とならないよう、
まずは色落ちの度合いをチェックしましょう。

注染染めや藍染めなど、色の濃い部分は色が出やすくなっています。
逆にプリントのものは色落ちせず自宅で洗濯できるように作られています。
お手持ちの浴衣が注染染めや藍染めかどうか分からない場合には、購入された店舗に確認されると良いかと思います。

用意するもの

  • ・浴衣
  • ・タオル2枚
  • ・歯ブラシまたは綿棒
  • ・水
  • ・洗濯用中性洗剤

①浴衣の下にタオルを敷き、洗濯用中性洗剤を歯ブラシまたは綿棒の先に少量つけたものを、
浴衣の目立たない柄の部分に軽くこすりつけます。

②そうすると下のタオルにうっすらと柄の色がうつります。
うっすら程度であれば、お洗濯に問題ありません。
このとき色が濃く出る場合は色落ちする可能性が高いので、自宅でのお洗濯は避けましょう。

※赤い丸の内側が色移りしている部分です

③そのあと、下に敷いたものとは別の濡れタオルで、
中性洗剤をこすりつけた部分を上からポンポンと叩きます。
洗剤をタオルに移すイメージで。
このときも下のタオルにぼやっとした色がうつることがあります。

この程度でしたらご自宅でのお洗濯は可能ですが、
色が濃く出た場合には自宅でのお洗濯は避けてください。

浴衣は絹のきものと違い染料の色どまりが悪く、
何回お洗濯してもうっすら色が出てくるものだそうです。
例えば白地に紺の柄の浴衣をお洗濯すると、白地の部分に薄い青みがかかってきます。
私自身も白地に紺の浴衣を自宅で洗濯し「なんとなく全体的に青みがかかっている気がする…?」
と思っておりましたが、気のせいではなかったようです。
着用すると気にならない程度ですので、気軽に着ております。
少しの色移りでも気になさる場合には、専門店にお出しください。

ポイント:お洗濯する前に色落ち具合をチェックすること!
注染染め、藍染めのものは色移りしやすいので、分からない場合は販売店へ確認を!

また、最近は「色移り防止シート」というものがあるそうです。
色落ちしやすいものと一緒にこのシートを洗濯機に入れると、水の中で色がにじんだときに
最初にシートが色を吸ってくれる優れものです。
インターネット検索で出てきますので、こういったものを使用されるのも良いかと思います。


さて、今回のブログはここまで。
お読みいただきましてありがとうございます。
浴衣のお洗濯の準備が整いましたところで、いよいよ次回からはお洗濯をしてまいりましょう!

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。